大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)2285号 判決
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【判旨】
一 ところで、<証拠>によれば、原告は、本件事故当時ころには、原告を含めて六人家族で生活し、昭和五六年九月から昭和五七年八月までの間、一か年四〇四万五、四四七円の生活費を要していたこと、原告の家族では、原告のほか、原告の妻がパートとして働き、月平均七ないし八万円の収入を得ていたこと、一方、原告は、事故当時、オリエンタルタクシー株式会社(以下、訴外会社という)で運転手として稼働し、主として大阪国際空港、園田競馬場附近を走行し、長距離客などからのチップによる収入及び「エントツ」すなわちメーターを倒すことなく運賃相当代金を運転手自らの収入とすることで、会社からの給料を補充していたこと、原告は会社から事故前三か月(但し、ボーナス分は含まない。)で六六万〇、六六六円の給料を支給され、また、訴外会社の原告に対する昭和五六年度夏季ボーナスは二五万三、九〇八円、同冬季ボーナスは三〇万五、二八二円をそれぞれ支給されることになつていたのに、休業のため支給されなかつたこと、原告の昭和五四年度の賃金等の収入は、一か年三〇三万三、六九一円であつたこと、原告の症状をみると、レントゲン検査の結果では骨に異常がなく、また、脳波検査の結果も正常であつて、さしたる他覚所見はなく、自覚症状による症状であつたこと、原告の任意契約していた二種の保険契約によれば、傷害により入院した場合に、一二〇日間の入院期間に限り、一日につき合計一万五、五〇〇円の補償給付金が支給されることとなつていたこと、原告は、本件事故により受傷した治療のため、杉本外科へ一二〇日間入院し、通院実日数も、通院期間の六二二日中、杉本外科へ三九三日、同六一七日中、瀬尾耳鼻咽喉科医院へ三八六日にもわたつていたことが認められる。
右によれば、原告の家族六名の生活費は、原告の訴外会社から支給される給料のみならず、その他の収入を加えてはじめてこれを算定しうるものではあるものの、右給料以外の収入としては、チップ収入及びエントツ収入という、不確実な要素を秘めた正規の運賃収入、従つて、正当な労働に対する対価とはいえない性質の収入源をもとにした収入であつて、かつ、加害者に対し、これに基づく収入の逸失を請求しえない性質を有する収入であることをも考慮すれば、原告の逸失利益を算定するにあたり、チップ収入及びエントツ収入を、その基礎収入として加味することはできない。原告の如く、賃金生活者の逸失利益を算定する際の基礎収入としては、より確実で、かつ、正規の報酬として社会生活上是認しうる副業による収入が認められる場合はともかく、これが認められない場合には、事故前三か月の平均月収と、夏季及び冬季に支給されるボーナスを加算したものとすべく、そうすると、原告の事故当時における年収としては、本件事故の前年度の支給金員からみて合理的な、約五%上昇した、三二〇万一、八五四円(六六万〇、六六六円×四+二五万三、九〇八円+三〇万五、二八二円)とし、これを原告の逸失利益算定の基礎とすべきこととなる。
二 また、右によれば、原告は、さしたる他覚所見もなく自覚症状のみの症状であるのに、任意の傷害保険より補償される限度である入院期間一二〇日間にわたつて入院し、治療に専念していたにもかかわらず、退院後六二二日間にわたつて、休診日を除けば、ほぼ毎日の如く通院するなど、通常の際における頸椎挫傷の傷害の治療経過に比し、いかにも異常な治療経過をたどつていること及び原告の職業などを考え合せれば、事故の日より症状固定に至るまでのうち、その八〇%の休業について、本件事故と相当因果関係にある休業と認めるのが相当である。
三 被告は、加害車を運転して、制限速度を時速三〇キロメートル超える時速約七〇キロメートルの高速度で本件事故現場附近に差しかかつた際、左側より進行してきた訴外車両との衝突を避けるべくハンドル操作をしたが、その操作を誤り、加害車両の運転の自由を失なつて何らの回避措置もとれないまま、加害車を右廻りに半回転させ、本件事故を惹起したこと、原告は、駐車禁止場所である本件事故現場に被害車を約二時間二五分にわたつて駐車させ、被害車内で仮眠をとつていたことは当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、本件事故現場は、南行き一方通行の、その幅員19.5メートルの六車線ある広道であつて、被告は西側より二車線目の車線内を走行していたところ、高速度のため運転操作を誤り、右へ半回転して本件道路東側端へ駐車していた被害車後部に、加害車左後部を衝突させ、被害車運転シートを約四五度の角度に倒して仮眠していた原告に衝撃を与えたことが認められる。
4 右の如き、本件道路の幅員、加害車の駐車状況、前記認定の事故発生時刻などによれば、原告に、右の如き、被告の運転する加害車の異常な進行を予見しなければならない法律上の注意義務を認めることができないのみならず、本件事故は、右にみた如く、被告の高速運転を原因とする運転ハンドル操作の誤りによつて生じた被告の一方的な過失に基づく事故であつて、原告の違法な駐車を原因として生じた事故ではないものというべく、事故の発生原因につき原告に非難さるべき行為が認められない本件においては、原告の損害につき、過失相殺することはできず、被告の過失相殺の主張は採用しない。 (坂井良和)